毎年恒例妄想SS『サンタ彼女2009』

「さ…寒い……」
僕はバイト帰りの道を足早に歩くけど、僕の周りには何組ものカップルがいて通りづらい…
(うぅ…いちゃつくのは別にいいけどせめて通り道は開けといて欲しい……)
カップルが多いのも無理はない 今日はみんなが待ち望んだ年に一度の聖なる夜―クリスマス―なのだから…
でも、僕は今日バイトだった 元々は休みだったけど、バイト先で働いてる女の子が彼氏とデートしたいから代わって欲しいと言われてつい頷いてしまった…
(…だって、僕は独り身だしなぁ 断れる気がしないじゃないか)
本当は友達からクリスマス会に誘われていたけどバイト先に欠員が出ると困る事も解っていたので友達からの誘いを断り、仕事に精を出す事にしたのだった
(精を出すといえば今日は避妊具がよく売れた気がする…)
バイト先のスーパーには薬品コーナーがあり、そういった物は普段はそこで取り扱っているのだけれど薬剤師の人が帰ってしまう時間になると薬品コーナーのレジが閉まってしまう 法律では薬剤師が不在の場合には薬品を売ってはいけない…しかし、避妊具などはその法律には当てはまらず、売る事ができる そのため、僕が働いてる食品レジにそういった物が持って来られるのだった…
…下ネタでごめん
十字路で赤信号に行き当たりその場に止まる 周りはカップルだらけ、正面もカップルだらけ、反対の道もカップルだらけ、対角線上もカップルだらけ…
(これは酷い…)
家族連れとかが混じっていてもいいんじゃないかと思うが周りにはカップル以外存在せず、独りで歩いているのは僕だけである まさに四面ラヴソング!!
(…こんな事ならクリスマス会に行っておけばよかった)
僕は今頃後悔した クリスマス会に参加してるメンバーの中には僕が好意を寄せている女の子…遠山さんもいる
僕とは違って活発で何でもハキハキ言えてみんなに好かれてるとっても可愛い女の子…俗に言う高嶺の花ってやつだね クリスマス会で告白できたらいいなぁ…とか思ってたのは内緒 そんな事を実行する度胸なんて僕にはない …バイトを口実に逃げたと言われても否定しないし、僕自身そう思ってる
(情けなっ…)
後悔してもいまさら遅い 僕はとぼとぼと帰るしかないのだから…カップルだらけのこの道を


「あ…お帰りなさい……」
「…えっ?」
家まであと少しといったところで後ろから呼び止められて振り返る
「…立川さん?」
そこには僕が惚れてる女の子…とは別のクラスメートの女子が立っていた 彼女…立川さんは遠山さんの友達の大人しい感じの女の子で遠山さんと一緒にクリスマス会に参加する事になっていた
「こんな所でどうしたの?」
なんでそこに立っているのかは解らないが幻ではないという事は吐く息の白さで確認できたので僕は話しかけてみる
「椎名君、クリスマス会来られなかったでしょ?…だから、みんながこれを」
そう言って立川さんは僕に紙袋を手渡した おそらく、クリスマス会で食べた料理を詰めてくれたんだろう
「あ…ありがとう!」
僕は友達たちの気遣いが素直に嬉しかった だから、みんなの代表としてきてくれた立川さんにお礼を言う 立川さんはそんな僕を見て微笑んでくれた
…だけど、ふと疑問が浮上した
「…でも、何で立川さんが?他のやつらに持たせてくれればよかったのに…」
彼女の表情が一瞬曇る …もしかして僕、変な事を聞いちゃった?
…だが、彼女は顔をあげると顔を真っ赤にしながらも笑顔を作り言い切った
「わたしが届けたいって言ったの!わたしはずっと椎名君の事が…」


遠山さんから僕らのクリスマス会に参加したのは立川さんのためだった…という話を聞くのは3学期に入ってからの事だった
おしまい